老年医学(3)

前回https://technocare.ocnk.net/diary-detail/62に続いて、臨床情報サイト「CareNet.com」から老年医学についての記事をご紹介します。

前回までは良かれと思って概略を掲載していたのですが、「CareNet.com」さんに確認したところ、むしろ原文のまま掲載して欲しいとのことでしたので、以下、転載します。

その後で、私の個人的な感想を少し書いてみたいと思います。


 “記憶のための薬”で治療してほしい【こんなときどうする?高齢者診療】第3回

老年医学の型「5つのM」で診察をするときに、「認知機能」は1つ目のMとして重要な項目です。皆さんもこんなケースに出合っていませんか?

 80歳男性。他院で軽度認知機能障害(MCI)と診断されている。2年前に受けた画像検査で「全体的な脳萎縮と脳室周囲白質に中等度の高信号」が認められている。日常生活動作(IADL)のうち、とくに金銭や自分の内服薬をマネジメントすることがより困難になり、妻とともにサービス付き高齢者住宅への転居を検討中。持病は高血圧、高脂血症。“記憶のための薬”で治療できるか知りたいと来院。

認知機能に関して、治療薬に期待する患者や家族は少なくありません。
患者の疑問に答える前に、軽度認知機能障害と認知症の違いを押さえておきましょう。

軽度認知障害:約10%が認知症に移行
軽度認知機能障害(Mild Cognitive Impairment)は、以前と比べて認知機能の低下がある状態を指します。具体的には、本人・家族から認知機能低下の訴えがあるものの、日常生活機能はほぼ正常で、ADLは自立しており、認知症ではないものとされています。1)MCIの段階から認知機能の維持や回復が見込める場合もありますが、1年の間にMCI患者の約10%、10人に1人は認知機能障害が進行し、認知症に移行する2)ことは疫学的に重要な視点です。

認知症:進行性かつ不可逆。いずれ死に至る病
認知症の診断基準はDSM-5に譲り3)、認知症患者を診るときに役立つ3つの特徴を押さえておきましょう。
まず、認知症は物忘れとイコールではありません。記憶障害のみならず、注意、言語、時間や空間の認知、他人の感情を察知する能力など多岐にわたる認知機能に障害が出現します。
2つ目に、認知症は進行性です。“子どもの成長の逆回し”と捉えるとわかりやすいでしょう。子どもは成長とともに日常生活の中で1人でできることが増えていきますが、認知症ではできないことが増えていきます。誰かのためにしていた仕事や家事、次に金銭や薬の管理といった日々の活動、続いて入浴や衣服の着脱など自分の身の回りのことと、サポートが必要となることが増えていき、最終的には食事を口に運ぶことや、嚥下や排泄などの生きるために最低限必要なことが、1人でできなくなっていくプロセスです。
3つ目に、認知症は不可逆でいずれ死に至る病です。現在のところ薬剤や非薬剤的な介入で認知機能障害の進行を緩徐にすることはできても、根本的に認知症を治すことはできません。

薬の効果は限定的。ではどうするか?
薬を使うかどうかに関わらず、老年医学の型「5つのM」を用いて、現状を俯瞰してみましょう。Matters Most(本人が困っていること、大切にしていること、心配なことなど)に注目し、詳しく話を聞いてみることがよいきっかけになります。薬への期待以上によい介入をするためには、患者が何に困っているか、何が心配なのかなどの解像度を上げることが重要です。そのヒントは、認知症は「認知機能が働きにくくなったために生活上の問題が生じ、暮らしにくくなっている状態」4)と捉えることです。この表現の引用元である「認知症世界の歩き方」は医学書ではありませんが、認知症患者がどのような生活をしているか具体的にわかりやすく描かれています。私自身も読んでみて、患者の生活をより想像しやすくなり、診療・ケアがしやすくなるヒントがたくさんちりばめられていた、おすすめの一冊です。

認知症、MCIいずれであっても、 “暮らしにくくなっていること”に注目すると、その原因や本人と家族が困っていることを想像しやすくなります。ここをスタート地点に介入やサポートの方法を探ると、薬剤投与以外にできることが見えやすくなります。このようなケースでも5つのMを活用してみてください!

参考
1)厚生労働省.生活習慣病予防のための健康情報サイトe-ヘルスネット.
2)M Bruscoli, et al. Int Psychogeriatr. 2004 Jun;16(2):129-140.
3)American Psychiatric Association. Diagnosticand statistical manual of mental disorders, Fifth Editon.DSM-5 Arlington, VA. American Psychiatric Association. 2013
4)筧裕介.認知症世界の歩き方.ライツ社.2021

出典
https://www.carenet.com/series/geriatrics/cg004657_003.html


引用は以上です。

軽度認知障害。私の両親(父80歳、母75歳)には今のところそのような兆候は見られませんが、今後そのような疑いが生じたときは、やはり検査と服薬で進行を遅らせたいと考えると思います。

しかし、薬では限定的な効果しか得られないのが現状である以上、薬だけに頼らない介入の在り方を探すために、「5つのM」のうち最も重要な観点「大切なこと(Matters most)」に注目することが勧められています。

上記の事例では、金銭及び服薬の管理が困難になったことが主な訴えとして挙げられているので、それらの困りごとへの対策を個別に考えることが適切な介入ということになるのでしょうか。介護の世界には良い知恵がたくさん転がっているのではないかと思うので、引き続き先輩方に教えを乞いたいと思います。