「コーピング」について

「コーピング(coping)」という言葉を、最近よく耳にするようになりました。
日本語では「対処力」と訳されることが多く、医療や介護の現場でも少しずつ浸透してきているようです。
この言葉は元々1970年代にアメリカの心理学者ラザルスとフォークマンによって提唱されたストレス理論に由来しています。
「ストレスは、外からやってくる出来事そのものではなく、それをどう受け止め、どう向き合うかに本質がある」
そんな考え方から生まれたのが「コーピング」という概念でした。
とはいえ、学問の世界で提唱されたこの考え方が、医療や介護の臨床現場で実際に注目されるようになったのは1990年代以降。
がんや難病など、すぐには治らない病や障がいと向き合う患者さんたちが、自分なりの意味を見つけたり、感情と折り合いをつけたりする姿が、多くの看護師・支援者の心に深く刻まれてきたからでしょう。
ストレスに直面した時、私たちは誰しも、さまざまな方法でそれを乗り越えようとします。
何かに集中して気をまぎらわせる人もいれば、仲間と話すことで気持ちを整理する人もいます。
時には、ただ黙って動植物に触れる時間が支えになることもある。
そんな「その人なりのやり方(=コーピング)」を見つけたり育んだりする関わりこそが、今、医療・福祉の現場で大切にされ始めているということなのだと思います。
また、この流れとともに、「レジリエンス(回復力)」という言葉も注目されるようになりました。
心が折れないことではなく、折れそうなときにどう立て直せるか。
その力もまた、コーピングの積み重ねのなかで育っていくのかもしれません。
ストレスや困難を完全に消し去ることはできません。
けれど、それとどうつき合うかには選択の余地があります。
そして、その選択の支援こそが、私たちケア職の醍醐味なのだと思います。
コーピングは、医療や介護だけでなく、私たち自身の日々の暮らしや人との関わりのなかにも息づいているものだと思います。
今日のこの学びが、誰かとの対話や支援の中で役に立つことがあれば嬉しいです。
学びのきっかけは、この論文を紹介した記事を読んだことでした:
Choi, Y. Y., et al. (2025). The effect of nurse-led enhanced supportive care as an early primary palliative care approach for patients with advanced cancer: A randomized controlled trial. International Journal of Nursing Studies, 168, 105102. https://doi.org/10.1016/j.ijnurstu.2025.105102
なお、ストレスとコーピング理論の原点とされ、現代の対処力概念の基礎となった名著はこちら:
Lazarus, R. S., & Folkman, S. (1984). Stress, appraisal, and coping. Springer.
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